「ライバルは同級生」第4話
2016/11/08 Tue 20:10
第4ラウンド開始のゴングが鳴り、未希はコーナーを出ていく。
気持ちを奮って向かって行くものの、小泉の左ジャブを先に浴びてその一発だけで後ろによろめいた。
気持ちを持ち直しても身体は正直だった。急に身体が疲労に襲われ全身が水の中にいるかのように重たくなる。その場に立ち尽くす未希を前に、
「馬鹿ねぇ。あそこで止めとけばこれ以上恥をかかずにすんだのに」
と小泉が挑発する。
口を開けて呼吸を荒げるだけの未希に小泉は、
「もう話せる余裕もないみたいね」
と言って距離を詰めに出た。
小泉が左ジャブを連続して未希の顔面を打ち込んでいく。このラウンドに入って小泉が闘い方を変えてきていた。左ジャブを中心にしたオーソドックスなボクシングに。
これが小泉の本来のボクシング・・・。あたしのジャブとはキレがまるで違う・・・。
小泉の左ジャブに未希はこれまで築き上げてきた誇りが打ち砕かれていく。
小泉の左ジャブの連打の前に未希は近づくことさえ出来ない。
未希は棒立ちになり、サンドバッグのようにパンチを浴びる。もう足を前に出す気力さえ残っていない。それでもまだ闘うことを止めない。貴子たち女子ボクシング部員の応援する声が未希を支えていた。
みんなが応援してくれている。負けられないよ・・・。パンチをかわせないなら・・・。
未希が再び前に出た。
小泉の左ジャブが弾かれる。未希は顎を下げ額で受けていた。一気に距離を詰めて、小泉の脇腹に左のボディブローを打ち込んだ。
小泉の口から唾液がポシャポシャッと吐き出された。
未希はもう一度左ボディを打ち込んだ。小泉の身体がくの字に折れ曲がる。
間違いなく効いている。時宗の言っていたことは当たっていたんだ。
未希は左のボディブローに全てを託して攻めていく。小泉もパンチを打ち返してきた。二人が足を止めてノーガードで打ち合った。未希はボディに、小泉は顔面へとパンチを打ち込んでいく。とうに限界を超えて身体にダメージと疲労を負っている未希。貴子たちの声に力を与えてもらえて闘い続けることが出来ていた。
だが、その奮闘にも限界がきた。小泉の左フックをテンプルに受けて三半規管が麻痺していく感覚に襲われた。
次はもう耐えられない。次のパンチで倒さなきゃ・・・。
未希は残された力を振り絞って左のボディブローを打ちに出た。貴子たちの声援に応えたい思いが込められた未希の全身全霊のパンチ。
しかし、決まったのは――――。
グワシャッ!!
重く鈍い強烈な打撃音が響き渡り、未希への声援が止まった。決まったのは小泉の右ストレート。未希のパンチは届かずに両腕がだらりと下がっていた。小泉の右拳が顔面にめり込まれたまま、未希は身体がぷるぷると震えている。
小泉が拳を引くと、未希はひしゃげた顔面をあらわにし前のめりに崩れ落ちていった。無防備に顔面からキャンバスに倒れると、ダウンが宣告された。
「立って未希~!!」
「未希~!!」
キャンバスに顔を埋めたまま動けずにいる未希に貴子たちの激励の言葉が何度となく送られる。立ち上がれるわけがない。もう試合は終わったという空気が場を支配する中、奇跡は起こった。未希はカウント9で立ち上がった。
依子が再開の合図を出す前に前へとゆっくり進んでいく。
「ちょっと、未希!!」
戸惑う依子をよそに未希は小泉に向かっていく。小泉もとどめを刺しにコーナーを出た。小泉の左ジャブをガードすると、未希は右のストレートを放つ。しかし、左のガードが下がり前の悪い癖が出ている。その隙を小泉が見逃すはずがなかった。もう一度カウンターを打ちに出る。
これでおしまい。そう思われた次の瞬間、未希はパンチを避けていた。
ガードが下がったのはあえて。小泉ならカウンターを打ってくるだろうと見越して。自分の悪い癖を利用した未希は隙だらけとなった小泉の右脇腹に左の拳を打ち込んだ。
ズドオォッ!!
重たい打撃音が響き渡る。
だが、パンチを打った直後に相手に身体を預けたのは未希の方だった。虚ろな目をして両腕がだらりと下がる。今のパンチで精も根も尽き果てた未希に小泉がぎろりと目を向ける。とどめのパンチを改めて打とうと右拳を引いて放った瞬間に小泉の身体がその場に膝から崩れ落ちた。
依子がダウンを宣告する。
「バランスが崩れただけよ。効いてなんかないわ」
小泉が余裕をみせながら立ち上がろうとキャンバスに左手をついたが、腰を上げた途端にバランスを崩しまた後ろに尻餅をついた。
「ちょっ・・・ちょっと待ってよ」
余裕があった小泉の表情が崩れ取り乱した表情に変わった。
カウントが進んでいく。
「効いてない!パンチなんか効いてないんだから!」
小泉が太ももを手で打ち付けるが、腰が上がらない。
「ナイン、テン!!」
依子が未希の右腕を持ち上げた。
貴子と美奈と加代がリングに入って未希に抱きついた。
「やったじゃない未希!!」
貴子の言葉に未希は、
「みんなのおかげだよ。みんなの声があったから頑張れたんだ」
と言った。女子ボクシング部員たちと喜びを分かち合う中、リングを降りようとする小泉を目にして未希は声をかけた。
「小泉!!」
小泉が力の無い目でこちらを見た。
「本当はまだボクシングをやりたいんじゃないのか」
小泉の表情が固まった。
「だから、あたしに喧嘩をうってきたんだろ」
小泉がきっと睨みつける。それから、目を瞑り顔を背けて、
「あなたにわたしの何が分かるっていうの。適当なこと言わないで!」
と大声で言った。
「お前もボクシングが大好きだったんだろ。じゃなきゃあんなに良い左ジャブは打てないよ」
小泉が弱々しい顔をして口を開ける。それから大粒の涙を流した。
「ボクシングしたくなったらまたいつでもきなよ。あたしが迎えうってあげるから」
小泉は未希の言葉には返事をせずに右手で顔を伏せながらリングを降り、部室を出ていった。
気持ちを奮って向かって行くものの、小泉の左ジャブを先に浴びてその一発だけで後ろによろめいた。
気持ちを持ち直しても身体は正直だった。急に身体が疲労に襲われ全身が水の中にいるかのように重たくなる。その場に立ち尽くす未希を前に、
「馬鹿ねぇ。あそこで止めとけばこれ以上恥をかかずにすんだのに」
と小泉が挑発する。
口を開けて呼吸を荒げるだけの未希に小泉は、
「もう話せる余裕もないみたいね」
と言って距離を詰めに出た。
小泉が左ジャブを連続して未希の顔面を打ち込んでいく。このラウンドに入って小泉が闘い方を変えてきていた。左ジャブを中心にしたオーソドックスなボクシングに。
これが小泉の本来のボクシング・・・。あたしのジャブとはキレがまるで違う・・・。
小泉の左ジャブに未希はこれまで築き上げてきた誇りが打ち砕かれていく。
小泉の左ジャブの連打の前に未希は近づくことさえ出来ない。
未希は棒立ちになり、サンドバッグのようにパンチを浴びる。もう足を前に出す気力さえ残っていない。それでもまだ闘うことを止めない。貴子たち女子ボクシング部員の応援する声が未希を支えていた。
みんなが応援してくれている。負けられないよ・・・。パンチをかわせないなら・・・。
未希が再び前に出た。
小泉の左ジャブが弾かれる。未希は顎を下げ額で受けていた。一気に距離を詰めて、小泉の脇腹に左のボディブローを打ち込んだ。
小泉の口から唾液がポシャポシャッと吐き出された。
未希はもう一度左ボディを打ち込んだ。小泉の身体がくの字に折れ曲がる。
間違いなく効いている。時宗の言っていたことは当たっていたんだ。
未希は左のボディブローに全てを託して攻めていく。小泉もパンチを打ち返してきた。二人が足を止めてノーガードで打ち合った。未希はボディに、小泉は顔面へとパンチを打ち込んでいく。とうに限界を超えて身体にダメージと疲労を負っている未希。貴子たちの声に力を与えてもらえて闘い続けることが出来ていた。
だが、その奮闘にも限界がきた。小泉の左フックをテンプルに受けて三半規管が麻痺していく感覚に襲われた。
次はもう耐えられない。次のパンチで倒さなきゃ・・・。
未希は残された力を振り絞って左のボディブローを打ちに出た。貴子たちの声援に応えたい思いが込められた未希の全身全霊のパンチ。
しかし、決まったのは――――。
グワシャッ!!
重く鈍い強烈な打撃音が響き渡り、未希への声援が止まった。決まったのは小泉の右ストレート。未希のパンチは届かずに両腕がだらりと下がっていた。小泉の右拳が顔面にめり込まれたまま、未希は身体がぷるぷると震えている。
小泉が拳を引くと、未希はひしゃげた顔面をあらわにし前のめりに崩れ落ちていった。無防備に顔面からキャンバスに倒れると、ダウンが宣告された。
「立って未希~!!」
「未希~!!」
キャンバスに顔を埋めたまま動けずにいる未希に貴子たちの激励の言葉が何度となく送られる。立ち上がれるわけがない。もう試合は終わったという空気が場を支配する中、奇跡は起こった。未希はカウント9で立ち上がった。
依子が再開の合図を出す前に前へとゆっくり進んでいく。
「ちょっと、未希!!」
戸惑う依子をよそに未希は小泉に向かっていく。小泉もとどめを刺しにコーナーを出た。小泉の左ジャブをガードすると、未希は右のストレートを放つ。しかし、左のガードが下がり前の悪い癖が出ている。その隙を小泉が見逃すはずがなかった。もう一度カウンターを打ちに出る。
これでおしまい。そう思われた次の瞬間、未希はパンチを避けていた。
ガードが下がったのはあえて。小泉ならカウンターを打ってくるだろうと見越して。自分の悪い癖を利用した未希は隙だらけとなった小泉の右脇腹に左の拳を打ち込んだ。
ズドオォッ!!
重たい打撃音が響き渡る。
だが、パンチを打った直後に相手に身体を預けたのは未希の方だった。虚ろな目をして両腕がだらりと下がる。今のパンチで精も根も尽き果てた未希に小泉がぎろりと目を向ける。とどめのパンチを改めて打とうと右拳を引いて放った瞬間に小泉の身体がその場に膝から崩れ落ちた。
依子がダウンを宣告する。
「バランスが崩れただけよ。効いてなんかないわ」
小泉が余裕をみせながら立ち上がろうとキャンバスに左手をついたが、腰を上げた途端にバランスを崩しまた後ろに尻餅をついた。
「ちょっ・・・ちょっと待ってよ」
余裕があった小泉の表情が崩れ取り乱した表情に変わった。
カウントが進んでいく。
「効いてない!パンチなんか効いてないんだから!」
小泉が太ももを手で打ち付けるが、腰が上がらない。
「ナイン、テン!!」
依子が未希の右腕を持ち上げた。
貴子と美奈と加代がリングに入って未希に抱きついた。
「やったじゃない未希!!」
貴子の言葉に未希は、
「みんなのおかげだよ。みんなの声があったから頑張れたんだ」
と言った。女子ボクシング部員たちと喜びを分かち合う中、リングを降りようとする小泉を目にして未希は声をかけた。
「小泉!!」
小泉が力の無い目でこちらを見た。
「本当はまだボクシングをやりたいんじゃないのか」
小泉の表情が固まった。
「だから、あたしに喧嘩をうってきたんだろ」
小泉がきっと睨みつける。それから、目を瞑り顔を背けて、
「あなたにわたしの何が分かるっていうの。適当なこと言わないで!」
と大声で言った。
「お前もボクシングが大好きだったんだろ。じゃなきゃあんなに良い左ジャブは打てないよ」
小泉が弱々しい顔をして口を開ける。それから大粒の涙を流した。
「ボクシングしたくなったらまたいつでもきなよ。あたしが迎えうってあげるから」
小泉は未希の言葉には返事をせずに右手で顔を伏せながらリングを降り、部室を出ていった。
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