「Valkyrie age」第3話
2018/02/24 Sat 22:14
「何やってるんだ。慎重に行けと言っただろうが。分かってるのか、この試合に負けたらお前も俺も軍にいられなくなるんだぞ」
ダウンから立ち上がりすぐに鳴ったゴングに救われてかろうじて赤コーナーに生還出来たユウにエルマが鬼のような形相で檄を飛ばす。
「奴はカウンターの使い手だ。右は出すな。タイミングを読まれている可能性がある。左だ。左のパンチで崩していけ」
左のパンチだけで崩せるボクシングをキララがしているとは思えないよ。心の中でそう思いながらもユウは第2Rが始まるとエルマの指示通りのボクシングを実行した。それは1Rと同じ攻め方をしてもキララには勝てない。だからといって他に有効な作戦が思い浮かばないという消極的な理由からだった。
基本に忠実なボクシングにすがる他ない。
そんな追い詰められた状況の中で、赤コーナーを出ていく。
徐々にキララとの距離を詰めていきながら、軽く左拳を握る。
左拳にこんなに意識を集中させるなんていつ以来だろう。
ボクシングを始めたばかりの頃を思い出す。
ユウは自虐気味に笑みを浮かべる。
まぁ、案外悪くないかもね。
ボクシングの原点であって最も重要なパンチにすべてを託す。
分かりやすくていいじゃん。
最も練習してきたパンチなんだ。
自信を持って打ちなよ、あたし。
初めは当たらないかもしれない。でも、しつこく出し続けていればいつか当たる。
そう信じてユウは左のジャブを放った。
何千、何万と練習で打ってきたパンチ。
その中でも会心の左ジャブを打てている。
初心に帰ったユウは左の腕を前に伸ばしていく最中、パンチが走っている感触を味わう。
キララは距離を取らずにいる。
反応出来ていないんだ。
バシイィッ!!
高らかに響くジャブの音。打ち抜かれた顔面はひしゃげ、潰れた鼻から血が吹き散っていく。足がもつれよたよたと下がる。
鼻血を出させ射程の距離から追い出した、最高といえる左ジャブ。
そのパンチを生み出していたのはキララだった。
二歩三歩と後ろに下がって、持ちこたえるユウ。
「嘘でしょ…」
鼻血をキャンバスにぽたぽたと落としながら呆然とした表情で声を漏らした。
会心の左ジャブさえもカウンターのパンチを合わされた。
しかも、このR初めて打ったパンチに。
パンチを出せばカウンターで返される。
そんな地獄のような展開を想像し、ユウはごくりと唾を飲んだ。
青ざめた表情をするユウにキララが表情を変えずに言った。
「ごめんねユウちゃん。わたしはもう昔のわたしじゃないの」
ユウが歯をぐっと噛み締めた。左拳をぎゅっと握りしめる。
「何をっ…」
キララを睨み付け闘争心を剥き出しにするユウ。
「あたしだってあの時より遥かに強くなってるんだ!!」
ユウが左のジャブを放つ。しかし、そのパンチはキララの頬の横を通り過ぎ、逆にキララの左ジャブがユウの頬に抉り込むように打ち込まれた。
首がぐにゃりと曲がるユウ。唾液と血が霧状に舞い、キャンバスにシミが出来上がる。
歯を食いしばって堪え、再び睨み付けるようにキララを見た。
認めたくない。キララのその力を。
全てのパンチを返すカウンターパンチを打てる。
そんな技術を持っていたら勝てるはずない。
ただ可能性を否定したいがためにユウはすぐさま反撃に出た。
審判のカギを握る左ジャブを打って。
しかし、そのパンチをヘッドスリップで難なくかわしたキララは左ジャブをカウンターでユウの顔面にめり込ませる。
第2Rが開始され、またユウへの声援が起き始めていた場内が瞬く間に静まり返った。
あらゆるパンチをカウンターで打ち返す怪物の誕生を目にし、地球側の人間が大半を占める観客たちは言葉を失う。
ありえないという思いは勝てるはずがないへと変わっていた。
ユウが左ジャブを打ちに出る。
ユウだけが受け入れられずにいる。
その先にあるのは――――。
「またしてもキララ・チガサキのカウンターパンチが炸裂!!これで五発連続です。ユウ・アカシの左ジャブをすべてカウンターで打ち返しています!!キララ・チガサキが地球最強のファイター、ユウ・アカシを手玉に取っています!!」
出したパンチをことごとくカウンターで返され、パンチを打つたびにボロボロになっていくユウ。
想定した地獄が現実のものとなっていく。
ダウンから立ち上がりすぐに鳴ったゴングに救われてかろうじて赤コーナーに生還出来たユウにエルマが鬼のような形相で檄を飛ばす。
「奴はカウンターの使い手だ。右は出すな。タイミングを読まれている可能性がある。左だ。左のパンチで崩していけ」
左のパンチだけで崩せるボクシングをキララがしているとは思えないよ。心の中でそう思いながらもユウは第2Rが始まるとエルマの指示通りのボクシングを実行した。それは1Rと同じ攻め方をしてもキララには勝てない。だからといって他に有効な作戦が思い浮かばないという消極的な理由からだった。
基本に忠実なボクシングにすがる他ない。
そんな追い詰められた状況の中で、赤コーナーを出ていく。
徐々にキララとの距離を詰めていきながら、軽く左拳を握る。
左拳にこんなに意識を集中させるなんていつ以来だろう。
ボクシングを始めたばかりの頃を思い出す。
ユウは自虐気味に笑みを浮かべる。
まぁ、案外悪くないかもね。
ボクシングの原点であって最も重要なパンチにすべてを託す。
分かりやすくていいじゃん。
最も練習してきたパンチなんだ。
自信を持って打ちなよ、あたし。
初めは当たらないかもしれない。でも、しつこく出し続けていればいつか当たる。
そう信じてユウは左のジャブを放った。
何千、何万と練習で打ってきたパンチ。
その中でも会心の左ジャブを打てている。
初心に帰ったユウは左の腕を前に伸ばしていく最中、パンチが走っている感触を味わう。
キララは距離を取らずにいる。
反応出来ていないんだ。
バシイィッ!!
高らかに響くジャブの音。打ち抜かれた顔面はひしゃげ、潰れた鼻から血が吹き散っていく。足がもつれよたよたと下がる。
鼻血を出させ射程の距離から追い出した、最高といえる左ジャブ。
そのパンチを生み出していたのはキララだった。
二歩三歩と後ろに下がって、持ちこたえるユウ。
「嘘でしょ…」
鼻血をキャンバスにぽたぽたと落としながら呆然とした表情で声を漏らした。
会心の左ジャブさえもカウンターのパンチを合わされた。
しかも、このR初めて打ったパンチに。
パンチを出せばカウンターで返される。
そんな地獄のような展開を想像し、ユウはごくりと唾を飲んだ。
青ざめた表情をするユウにキララが表情を変えずに言った。
「ごめんねユウちゃん。わたしはもう昔のわたしじゃないの」
ユウが歯をぐっと噛み締めた。左拳をぎゅっと握りしめる。
「何をっ…」
キララを睨み付け闘争心を剥き出しにするユウ。
「あたしだってあの時より遥かに強くなってるんだ!!」
ユウが左のジャブを放つ。しかし、そのパンチはキララの頬の横を通り過ぎ、逆にキララの左ジャブがユウの頬に抉り込むように打ち込まれた。
首がぐにゃりと曲がるユウ。唾液と血が霧状に舞い、キャンバスにシミが出来上がる。
歯を食いしばって堪え、再び睨み付けるようにキララを見た。
認めたくない。キララのその力を。
全てのパンチを返すカウンターパンチを打てる。
そんな技術を持っていたら勝てるはずない。
ただ可能性を否定したいがためにユウはすぐさま反撃に出た。
審判のカギを握る左ジャブを打って。
しかし、そのパンチをヘッドスリップで難なくかわしたキララは左ジャブをカウンターでユウの顔面にめり込ませる。
第2Rが開始され、またユウへの声援が起き始めていた場内が瞬く間に静まり返った。
あらゆるパンチをカウンターで打ち返す怪物の誕生を目にし、地球側の人間が大半を占める観客たちは言葉を失う。
ありえないという思いは勝てるはずがないへと変わっていた。
ユウが左ジャブを打ちに出る。
ユウだけが受け入れられずにいる。
その先にあるのは――――。
「またしてもキララ・チガサキのカウンターパンチが炸裂!!これで五発連続です。ユウ・アカシの左ジャブをすべてカウンターで打ち返しています!!キララ・チガサキが地球最強のファイター、ユウ・アカシを手玉に取っています!!」
出したパンチをことごとくカウンターで返され、パンチを打つたびにボロボロになっていくユウ。
想定した地獄が現実のものとなっていく。
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