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「あに―いもうと」第4話

2017/04/14 Fri 20:02

「ダウン!!」
 レフェリーがダウンを宣告し、カウントを数え始めた。しかし、キャンバスに仰向けで大の字に倒れ微動だにしない亜衣の姿にカウントはもはや不要のように思われた。それでもカウントが数えられているのは試合がまだ第2Rに過ぎずこのままだと早く終わりすぎてしまうから。この状況を見た者の大半がそう思うほどに亜衣の倒れ方は壮絶だった。そして、誰よりもそう強く思っているのがタクロウだった。
 顔面は真っ赤に染め上がりキャンバスに大の字に倒れている亜衣の凄惨な姿を見て、タクロウは六年前の自分が挑戦した世界タイトルマッチを思い起こさずにはいられなかった。
 あの試合でタクロウはわずか2RでKO負けした。合わせられるはずがないと思っていたデンプシーロールにカウンターを打ち込まれたのだ。その一発で試合は終わった。そして、その一発でタクロウのボクサー生命も絶たれた。顎を複雑骨折し完治は不可能だった。デンプシーロールは威力が凄まじい分、カウンターで合わせられた時の威力も桁違いになっていた。無敵だと思っていたパンチは諸刃の剣だった。
 後で関係者から聞いて分かった話だが、チャンピオンはデンプシーロール対策として世界中からデンプシーロールの使い手を探した。そして見つけ、スパーリングパートナーとして雇っていたのだ。決まった動きをする分、慣れてしまえばむしろカウンターを合わせやすい。それは亜衣との試合を控えてタクロウ自らが美羽のスパーリングパートナーを務めたことでも改めて分かった。
 もし俺という存在がなかったら亜衣は世界チャンピオンにもなれていたかもしれない。デンプシーロールを打てる選手なんて早々いない。ましてスパーリングパートナーに金をかけられない女子ならなおさらだ。俺がトレーナーをしていなければ…。
 タクロウはリング上の悲しき結末に、力無く俯いた。
 亜衣のボクサー生命もこれで絶たれたかもしれない。俺のせいで…俺のせいで亜衣は…
 場内が急に沸き起こり、タクロウが顔を上げた。
 リングの上では、立ち上がりプルプルと膝を震わせながらもファイティングポーズを取っている亜衣の姿があった。
小説・あに―いもうと | コメント(0)
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