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「おさぼく2」第1話

2017/03/18 Sat 19:02

 夕暮れが終わる頃、遥花は目的の場所に足を踏み入れた。
 そこは遥花にとって思い入れのある場所。家から五分の距離にある川上公園。小学生の頃はここでよく遊んだ。ヨウジがいつもいて他にその時その時で違うクラスメートの男子が二、三人。そして、女子は遥花だけ。
 体格が良くてガキ大将みたいな存在だったリョウヤという男子がいて、彼がいると必ず遊びのリーダーシップを取っていた。ヨウジははっきりしなくてぼそぼそ話すからよくリョウヤから馬鹿にされてたけど、そんな時遥花はいつも代わりに言い返していた。時には取っ組み合いの喧嘩にも発展したけれど、痣ができたって平気だった。
 こうして公園にいると、あの頃が懐かしくなって、あの日々に戻りたい思いになる。あの頃はまだヨウジも鬱陶しそうにせず接してくれていた。
 遥花はベンチに腰掛けた。周りには誰の姿いない。公園の時計の針は五時十五分を指していた。
 物音がして、公園の入り口の方に顔を向けた。お目当ての人物の姿を確認して、遥花は意地悪そうに頬を緩ませた。
「珍しいね。ヨウちゃんから呼び出すなんて」
 ヨウジは座らずに立ち続けている。
「一か月、ジムに来ねえから」
 ヨウジはぶっきらぼうに言った。見上げていた遥花は目を瞑り顔を背けて言った。
「なぁんだ。やっぱりそのことなんだ」
「そのことってなんだよ、大事なことだろ」
 ヨウジは声を大きくして言った。遥花は再び意地悪な笑みを浮かべる。
「心配してくれてるんだ」
 ヨウジが目を背ける。
「別に…。大山さんが遥花はどうしたってうるせぇから…」
 遥花は両手を使ってベンチから立ち上がり、右に二、三歩進んで背を向けて言った。
「あたし…ジムにはもう行かないかも」
「なんだそれっ、ボクシングを止めるってことか」
 ヨウジが声を荒げた。遥花はまたヨウジの顔を見ないまま、
「別にどうだっていいでしょ。ヨウちゃん、あたしがジムにいると嫌な顔してるんだし」
 と言った。数秒経っても返事が来ずヨウジを見ると、口を真一文字に結んで地面を見つめていた。
「やっぱりそうだったんだな…」
「何がよっ」
 含みのあるヨウジの言い回しに遥花はむっとした顔をする。
「俺がボクシングを始めたから遥花もボクシングを始めた。沢村が言ってた。だから、そんなあっさりとボクシングを止められるんだろ」
 遥花は表情を無くした。目を反らし、
「自惚れないでよ」
 そう言うと、その場から駆けるように出て行った。
 イヤだ…。穂乃花に負けて以来、イヤなことばかりだ。ボクシングのことを考えるだけで辛くなって、ヨウちゃんからは気持ち見透かされて…。
 目に溜まる涙が零れ落ちないよう必死に耐えながら、遥花は走り続けた。
小説・おさぼく2 | コメント(0)
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